職人の冒険秘話~旅立ち~

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「これで、良し」
日課となっている確認作業を終えて社誌をそっと閉じるとゆっくり目を瞑る。

日々の生活に追われる中で、なんとか今の生活に落ち着けた事には感謝している。最初は小規模だった会社も今では自分でも驚く程に規模が拡大しているし、やりたい事も出来ている。反面、こうして改めて振り返る機会を与えられると、どうしてこうなったんだろうと考えてしまう。

「社長、お疲れ様です」
不意に声がして目を開くと、席を外していたはずのカルルさんが挨拶に来ていた。

「どうかなさいましたか?」
「うん?」
「いえ、私の気のせいならよろしいのですが、何か悩まれているようだったので」
カルルさんの言葉に正直、驚いた。社内全体で見ればまだ入社して日の浅いカルルさんがボクのちょっとした様子の違いに気付けるのは彼女の性格故だろうか。そんな彼女に隠す意味はないとボクは口を開く。
「次の依頼の事でね」
「何か難しい依頼を受けてましたか?」
食い気味に尋ねてくるカルルさんにボクは首を横に振る。各地を転々とするボクに変わってボクを指名したいという依頼の窓口になっているカルルさん。もちろん最終的に依頼を受けるかどうかを決めるのはボクなのだけど、スケジュール管理の面ではかなり助かっている。

「いや、そうじゃないよ。でも、ね。この依頼なんだけど」
どうしても上手く説明できずに見せた方が早いとカルルさんにテーブルに置いていた依頼書を見せる。
「冒険者ギルドからの講演依頼、ですか」
依頼書から顔を上げながら不思議そうな顔をするカルルさん。
「問題なのは、その下。講演して欲しい内容の所なんだけど」
「えっと……冒険者ギルドに来た経緯、ですか?」
ボクの悩みの種の部分を示して尚不思議そうな顔は変わらないカルルさん。ボクの過去を知らないのだから当然と言えば当然である。

冒険者ギルドとしては過分にも「光の戦士」「英雄」なんて呼ばれているボクが何で冒険者になったかを話してさらなる冒険者の獲得と新人冒険者への奮起が目的なのだという事も依頼書には記されていた。

「社長が冒険者になった理由ですか……確かにそれは気になりますね」
カルルさんの反応は完全にボクの予想の範疇外だった。カルルさんがそこまで興味を示すとは考えもしなかった。
「社長の腕なら職人としてだけでも十分に生活していけるはずですし、単純に会社の事だけを思えば冒険者から足を洗う事も出来るはずです。それでも社長は今も二足の草鞋を履き続けているのは何故か……それが過去に関わっているというなら興味のある話です」
自身なりの考察も踏まえて言い切るカルルさん。そこには普段の仕事モードの時のカルルさんからは感じない一種の知識欲のような物を感じた。1人考え込むようにうつむいていたカルルさんがスッと顔を上げボクを見上げる。
「もし社長が思いだすのも嫌という類でないのならばお伺いしても?」
「面白い話、というわけではないよ?」
「構いません」
ボクの胸中とは裏腹に言い切るカルルさん。ここまできたら話さないというわけにもいかないだろう。幸か不幸か、思い出したくない話というわけでもない。
ボクは覚悟を決めて、記憶の奥底に潜りゆっくりと話し始めた。

ボクはエオルゼアの生まれではなくエオルゼア風で言う近東、都市国家ラザハンがあるサベネア島の比較的近くにある小さな島で生まれた。父は島を訪れる商船相手に船や道具の修理を請け負う職人として生計を立てており、母は商人達を相手にする酒場を切り盛りしていた。
ボクは物心付いた頃からどちらかと言えば父の工房に好んで出入りして、自然と父と同じ職人になりたいと思うようになったんだ。でも島でも職人は完全な男社会で、ボクは職人になる事に憧れながらも言い出せずに母の酒場を手伝うようになったんだ。
いつの頃からか、「超える力」に目覚めてしまった。当時は当然そんな力の事はよく分かってなくて、でも島の人からは気味悪がられた。この目立つ髪色も影響してたのかもしれない。

ボクの事をそんな風に見なかったのが島にやってくる商人の人達だけだった。今思えば彼らにとって異境だったからなのかもしれない。でもボクは普通に話せる相手が商人の人達しかいなかったから自然と酒場に出入りする商人の人達と話す機会が増えていったんだ。
そして商人の人達が話す「エオルゼア」に憧れるようになった。エオルゼアでは女でも職人になれるって話を聞いたのもこの頃かな。職人への憧れも重なってどんどん話に聞くエオルゼアに惹かれていったんだ。

話せば話す程エオルゼアへの思いは強くなって、堪え切れなくなって両親に打ち明けた。そこで初めて職人になりたいって思いも伝えた。今思えば、両親は既に感じ取っていたのかもしれない。父からは「半端にはなるな」とだけ言われて許してもらえたし、母はエオルゼアから来ている商人の中から船に乗せてくれる人まで探してくれた。
そうしてボクはエオルゼアに来る事になったんだ。

「それでエオルゼアにきて冒険者ギルドに?」
ボクの話の区切りにカルルさんが尋ねてくる。がボクは首を横に振った。
「もしこのまま順当にエオルゼアに降りたっていたら、ボクは冒険者にはならなかったと思う。本当に職人に憧れるだけの何も知らない女の子だったから」
当時の事を思いだすと自分でも本当に世間知らずだったと思う。島民みんなが顔見知りのような小さな島の中で育ったボクにとってエオルゼアは漠然とした理想郷でしかなかった事を思い知る事になったのは言うまでも無い。

異変に気付いたのは船に乗って何日かしてからだった。今思えば到着間近だったのかな。ボクは食事に薬を盛られて眠らされたんだ。気が付くとそこは既にそこはエオルゼアで、チョコボキャリッジの中だった。両手を後ろに縛られて口には喋れないように布を巻かれていた。
「目が覚めたか?」
すぐそばには商船に乗せてくれた商人が座っていた。ボクはなんとか後ろ手を解こうと暴れてみたけど全然ダメだった。
「悪く思わないでくれ。こっちも危ない橋を渡るんだ」
睨みつけるボクに商人は少し怯えるような口調で言った。
これは今のボクだからこその推察だけど、おそらくボクは商船に乗せられた時点で「売られていた」んだと思う。両親にはそんな意図はなかったと思いたいけど、実際の所は分からない。でも商人は明らかにボクを「商品」として扱っていた。

そのまま逃げだす事も出来ないままチョコボキャリッジに揺られていたんだけど、突然チョコボキャリッジが急停止したんだ。
「何してんだ!」
立ち上がった商人が怒鳴っても返事は無くて、代わりに帰ってきたのは小さな悲鳴と鈍い音。そして暴れるチョコボの声と振動だった。その揺れに商人がチョコボキャリッジから放りだされた。
「うわっ、アマルジャ。や、やめろ!」
チョコボキャリッジの外からは商人の慌てふためく声が聞こえてきたけど、ボクはただただ揺れに耐えるしかなかった。

少しして揺れが収まってもボクにはどうする事も出来なくて、ただただアマルジャ族がチョコボキャリッジの屋根を壊されるのを怯えてみている事しか出来なかった。
初めてアマルジャ族を見た時は、そんな状況もあって本当に混乱したよ。少しでも逃げようとすればいいのにそれすらも出来なかった。1人のアマルジャ族と目が合って、チョコボキャリッジにアマルジャ族が乗り込もうとした。

でもそうはならなかった。今までとは違う低い呻くような声に乗り込もうとしていたチョコボキャリッジにアマルジャ族が乗り込むのを辞めて音の方に向かって行ったんだ。そこからボクの耳に届くのは呻くような低い声と金属同士がぶつかり合うような音だけだった。
今だからこそその音がアマルジャ族が倒される音と武器がぶつかる音だって分かるけど当時は本当に何も分からなくてただただ恐怖に怯えてる事しか出来なかったんだ。

やがて音が止むとチョコボキャリッジに1人のララフェル族が乗ってきた。
「驚いた、人が捕まっておったか」
ララフェル族のその人は、ボクの口の布と後ろ手に縛られた拘束を解いてくれた。
「心底驚いたようじゃの、自分で動けるかい?」
促されるように立ち上がったボクはその人と共にチョコボキャリッジを降りた。そこに広がるのは当時はまだ見慣れない光景だった。身体に傷を覆い息絶えるアマルジャ族、そして、チョコボキャリッジの業者だろう男と商人も倒れていた。音だけしかなかった情報が一気にボクに流れこんできて、身体を震わせた。
「あまり見なくてよろしい。こちらにおいで」

その人の言葉にただただ動かされるようにしてボクは近くの岩場に移動した。
「君と男2人以外にあのチョコボキャリッジに乗っていた人はいるかい?」
その人の質問にボクはただ首を横に振って答える事しか出来なかった。
「攫われた者がいなかっただけ不幸中の幸いか。もう少し早く駆け付ける事が出来れば良かったが……」
その人の独り言に現実味の無かった出来事を段々とリアルに実感できるようになってきた。
「少し行くと不滅隊の駐屯地のキャンプ・ドライボーンがある。まずはそこまで行こう」

その人に連れられて少し歩いて、キャンプ・ドライボーンに行って宿を取ってもらった。言われるがままにベッドに座ったボクに不滅隊に報告してくるというその人が一時部屋からいなくなった時に凄く寂しく感じたのをよく覚えてる。
戻ってきたその人は向いのベッドに座るとゆっくりと口を開いた。
「災難じゃったの。不滅隊にチョコボキャリッジの場所は伝えておいたから時期に片づけられるじゃろ。詳しい事は明日聞くから今日はもうゆっくり休みなさい」

促されるままにその日は眠った。或いはこれは全て悪夢で寝て覚めたらまだ船の中で、なんて事を考えたけど、翌日目が覚めてもそこは昨日眠ったその部屋だった。
助けてくれたララフェル族の人が持ってきてくれた朝食を貰って食べながら話す事になった。
「少しは落ち着いたかい?まずは名前を聞かせてもらえるかい?」
「……チスイ、です」
「ふむ、ではチスイ。君の家はどこにある?そこまで送って行こう」
最初の質問にはなんとか答えられたけど、家の場所を聞かれて困った。どう答えればいいのか分からなかったんだ。
「あの、ここはエオルゼアですか?」
代わりに浮かんだのは質問だった。船で寝かされてしまって気付いたら既に陸の上だったし、そもそも今となっては船がエオルゼアに向かっていたかも怪しい。
「いかにもここはエオルゼアじゃが……どういう意味じゃ?」
全く別の場所、という最悪の事態を免れて少しだけ安堵した。アテもないので全てを話す事にする。ラザハン近くの島の出身でエオルゼアに憧れて船に乗せてもらった事、船で眠らされて気が付いたらあのチョコボキャリッジに乗せられていた事を話した。

「なるほど、君はエオルゼアに憧れてやってきた異邦人だと」
その人はボクの話をしっかり聞いてくれてその上で、状況を理解し完結にまとめて頭を抱えた。
「帰れとは言えぬし……うーん」
その人は少しの間悩んでから、覚悟を決めたように頷いた。
「分かった。しばらく一緒に来なさい。君の身の振り方を考えよう」
ボクに選択肢はなく、その人の言葉にただ頷く事しか出来なかった。

そこからのボクは言ってしまえば完全にお荷物だったと思う。
魔物に襲われれば守ってもらい、いくつか泊まった宿場町なんかでもまともにお使いができるわけもなくてただ付き従うだけだった。
はっきり言って依存していると言っても過言ではない状態だった。自分でエオルゼアに行きたいって言っておきながら、気持ちの上でも全く自立も出来ていなかった。
キャンプ・ドライボーンからハイブリッジを越えて、山を越えて、黒衣森に入った。その間には色々話を聞いてもらったけど、完全に夢物語だったよね。現実が見えてなかった。本当だったらボクはエオルゼアで後ろ盾を何も持っていないんだから何とか生きる術を身につけるべきだったんだよ。
それこそその人の生活はまさにそんな感じだった。宿場町に寄れば、街の人に声をかけて仕事を貰って報酬を貰ってそれを旅の糧にし、宿場町に寄れない時には魔物の中でも食べられる物を狩猟したり、草木の中から食べられる物を集めてもきた。

その人もそれを教えたかったんだろうね。ある時、
「自分の身くらいは守れるようになりなさい」
ってボクに弓を持たせたんだ。ボクはボクで、初めて扱う弓に最初は少し苦戦したけど、手伝ってもらいながらだけど魔物をしとめた時は喜びもした。

或いはその人は最初からそのつもりだったのかもしれない。グリダニアには弓術士ギルドがあったし、いつまでも一緒に旅を出来ない事も分かっていたんだと思う。
最低限弓を扱えるようになった頃、その人から冒険者ギルドの話を聞かせてもらったんだ。
「身の丈にあった仕事をもらって生活できるようになれる」
ってね。それにエオルゼアでは冒険者になって一定以上経験を積んでいれば、それぞれの職人ギルドにも出入り出来るって話も聞いた。
それでボクは最後にグリダニアに向かうチョコボキャリッジに乗せてもらって、グリダニアに向かう事になったんだ。

「それでボクはグリダニアで冒険者として登録したんだよね」
話し始めてどれだけの時間が経ったのだろう。カルルさんはボクが話しやすいように時々相槌を打ちながらも横やりを挟むでもなく話を聞いてくれた。話の合間に用意した紅茶を口にしてからカルルさんは口を開く。
「なかなか興味深いお話でした。今の話をそのままお話すれば良いのではないのですか?主催する冒険者ギルドとしてもそれを求めているのでは?」
「そうかもしれないけど、なんだろう。話すには長くなるし、何よりこれから冒険者になろう、頑張ろうってしてる人にとってはあまりにも動機が不純かなって思うんだよね」
端的に言ってしまえば、生活の為、職人になる為のステップとして冒険者になった。それだけの話なのだ。なんの夢も理想もない。プロパガンダ的に冒険者としても名が売れてしまったけれどそれはボクにとって結果でしかなく理想だったわけではない。

「人それぞれだとは思いますが、社長のようになりたいという人には十分後押しになると思います」
カルルさんは力強い言葉はボクの背中を押すには十分だった。隠しだてをしても仕方がないし、露骨に宣伝ぽくなるよりはいいのかもしれない。
「ただ、やはり講演として話すには長いので、ある程度まとめた方がいいかもしれないですね。私は今のままでも楽しめましたけど」
「そうだね」
「お手伝いします。上手く依頼をこなしましょう」
カルルさんはそう言ってニコっと笑ってみせた。

今ボクにはカルルさんを始めボクが冒険者としても職人としてもやっていく為に支えてくれる人達がいる。あの頃、エオルゼアに来た頃を思えば考えられなかった事だ。なんだかんだで支えてくれる人、支持してくれる人がいて今のボクがいる。
今回の依頼はそれを改めて実感する為の依頼だったのかもしれない。

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