職人の冒険秘話~竜騎士騒詩~

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チスイは1枚の手紙を片手に表情を曇らせていた。
手紙の形をした報告書によるとどうやらエオルゼアに駐屯する帝国軍残党兵が何やら動こうとしている節があるとの事だった。元々ガイウスを討ちとった事で、本国から支援をあまり受けられていないエオルゼアに駐屯する帝国軍。その上にアラミゴを奪還した事でさらにその支援は難しくなった。
チスイはとある任務でその実情を知って以来、ムクロを使って帝国軍残党の動きを探らせていた。そしたら案の定、という事である。

「社長、よろしいでしょうか?」
カルルの呼びかけに顔を上げる。するとカルルの横には見知った顔があった。

「よっ、ちーちゃん。今いい?」
見知った顔の主はジン・バックス。端的に言えば冒険者仲間の一人であり、同時にチスイの作る家具を買う常連客でもある。基本的には家具屋の客としての付き合いの方が強く、特にジンが家を買うとけっこうな量の家具を注文してくれたりもした。
「すみません、お呼びするのでお待ちをとお伝えしたのですが」
チスイはすぐに状況を把握した。ジン君の事だ、待ってろというのに後ろを付いてきたのだろう。チスイはその把握した状況と申し訳なさそうにするカルルの心中を察して1つ大きなため息を吐いた。

「いいよ、ちょうど手も開いたし。彼の相手はボクがするからカルルさんは戻って」
「失礼します」
カルルはお辞儀をして部屋を出ていく。カルルを見送るとチスイはジンを一瞥した。
「あまりうちの社員に迷惑かけないでよね?」
「わりぃって。どーしてもちーちゃんにすぐに伝えたい事があってさ!」
軽い調子のジンにチスイは再びため息を1つ。それでも相手をするという言葉に偽りはなく、来客用のソファーにジンを誘導すると自身も向かいに座り直す。

「それで連絡もなしにどうしたの?何か家具でも壊れた?」
「いや、ちーちゃんの作る家具はばっちり!大切に使わせてもらってるって」
「じゃあ新しい家具の注文?」
「違うって。そーじゃねーんだよ」
ジンは大袈裟な身ぶりでチスイの質問を否定すると、ポケットから1枚の紙を取り出した。チスイも見慣れたその紙は冒険者ギルドから発行される依頼書である。

「この依頼一緒にいけねーかなと思ってさ。ほら、場所もラノシアだから」
ジンの誘いを余所にチスイは依頼書に目を通す。依頼内容は、野生化したらしい軍獣の討伐。訓練されている事を考えれば多少難易度は高いがチスイの知る限りジンだけでも十分にこなせる依頼である。それになにより……
「こういうのはもうマックさんとしかやらないって話じゃなかったのかい?」
ジンは少し前にエターナルバンドをしている。その式でジンは、これからはエタバン相手であるマックさんと一緒に冒険していく事を誓っていたのだ。その宣言の場には式に呼ばれて出席いたチスイもいて、しっかりとその耳で聞いていた。
舌の根も乾かぬうちというには流石に少し期間は経ったがそれでもあの誓いはなんだったのか。とチスイはジンに軽蔑の眼差しを向けた。

そもそも、2人の出会いは、決して穏やかな物ではない。ウルダハのクイックサンドに立ち寄ったチスイを当時そこでバーテンをしていたジンがナンパしたのである。それからなんやかんやあって冒険者となったジンはチスイと再会。その頃にはチスイは会社も持ち、家具を作るなどしており、ジンは冒険者仲間兼お客さんになったのである。
「いや、それなんだけどよ。嫁ちゃん、同じタイミングで別の依頼受けちまって一緒にいけないんだよ。だからそんな目を向けるなって」

露骨なチスイの軽蔑の目線にジンは大袈裟に腕を振るって否定する。ジンのこういう性格を把握しているからこそチスイはジンにはフランクに接し、いじるような事もする数少ない相手だ。
ただ同時にチスイの頭には引っかかる事があった。先ほどの報告書だ。ちょうどジンの持ってきた依頼書の地域と近いのである。チスイには少し嫌な予感がした。

「んな難しい顔して大丈夫か?やっぱり忙しいか?」
「……いや、大丈夫。行こう」
ジンの確認にチスイは歯切れ悪く答える。その間にもチスイの頭の中ではこの依頼をどうするべきかと思考を巡らせていた。
「お、マジで?やったぜ。助かるよ」
そんなチスイの思考を露知らず、ジンは嬉しそうにガッツポーズをする。
「んじゃお互い準備して、明日の朝で良いか?」
「うん、それで良いよ」
「んじゃ明日ここに来るな!」

チスイが生返事しているにもジンは気付かずに依頼書も回収せずに部屋を出て行ってしまう。チスイは依頼書を手に自身の席に戻ると依頼書と報告書を並べてあれこれ思案するのであった。

翌日……チスイは準備を済ませると会社を出る。
会社はチスイがいなくても通常通り営業しているのでここで待ち合わせする場合には大抵少し離れたベンチに来るようにしてもらっている。チスイがベンチの方に歩いていくとそこには既にジンが待ち構えていた。
「準備」と言ったにも関わらずジンの服装は昨日と変わっていない。背中には仰々しい槍こそ背負っているが、それ以外は何も変わっていないのである。もっともこれはジンにとってはいつもの事なのでチスイには見慣れた光景である。一方で……
「あれ、ちーちゃん珍しい服装してんね?」
「……あぁそうだね。ジン君の前ではこの服装は珍しいかも」
チスイは言われて気がついた。チスイは今回、黒魔導師として任務に参加するべく黒魔の際の服装に身を包んでいた。これがチスイが熟考した結果である。これまでジンと任務に行く際のチスイは戦士や学者として同行する事が多かった。ジン自身が槍を扱う竜騎士である事もそうだが、ジンの周囲には攻撃役を担える者が多い結果である。
パーティーにおいて穴になる部分を埋める事が多いチスイは必然的に引きつけ役となる戦士や回復役に回る事が多いのだ。それは2人で任務に行った際も同様で竜騎士のジンに合わせるように回復役を務める事が多い。
「今回はジン君1人でも余裕だと思って、回復必要ないかなって」
「んなわけないだろー。ちーちゃんの回復必要だって」
「いいから、いいから。あんまりゆっくりしてると遅くなるよ」

ジンの否定を退けてチスイは先に歩みだす。ジンは文句を言いながらもその後ろを付いて2人は依頼場所に向かうのであった。

「うおっと」
ジンは元軍獣の攻撃を槍で上手く捌く。その槍捌きはチスイから見ても驚くべきものである。チスイは同じ槍使いでジンよりも上手い槍使いを知ってはいる。がその槍使いは既にベテランの域にいる冒険者であり、相対的に見ればまだ冒険者になって日の浅いジンの方が槍を上手く使えないのは当然なのである。

チスイが驚いているのはその上達の速度だ。ジンとは常に一緒に任務を受けるわけではないがそれでも何度も一緒に依頼はこなしている。そしてその槍捌きを見る機会毎にジンの槍捌きは格段に上達している。
はっきり言ってしまえば今回の依頼も本来の依頼だけなのであればチスイが来る必要は一切ない。ジンの実力はそれだけ確実に上がっているのだ。だからこそチスイはジンの目の前で暴れる元軍獣よりも周囲を警戒する事に注意を向けていた。
杞憂で終わるならそれでいい、そうでなかった時の為にチスイはいるのだった。まだここは帝国の勢力圏ではない。黒渦団の巡回が行われている範囲でもあるのでそこまで強く警戒する必要はないのだが……

「あ、逃げた!」
ジンの声にチスイは注意への警戒を一旦軍獣に向ける。軍獣はジンの槍捌きに恐れ慄いたのか完全にジンに背中を見せて駆けだしている。チスイから見ればかなりの間合いで完全に魔法の射程外である。
「追うぞ!逃がしたら意味ねぇ」
「……」

勢いに乗ったジンはその後を追う。チスイはやはり軍獣の動きが気になった。軍獣が逃げた先は……完全に帝国残党の領内である。しかし勢いに乗ったジンを放っておくわけにはいかない。チスイはジンの背中を追うように足を進める。
傷を負った軍獣の足はそこまで早くはないがかといって遅くもない。ジンとの間合いは詰まる事はないまま移動を続けていた。懸命に逃げていると言えば聞こえはよく、チスイの目には誘導しているようにも見えた。

2人はそのまま明らかに帝国敷地内だった範囲にまで足を踏み入れる。しかしここは既にもぬけの殻、帝国軍残党は既に後退し、ここは廃墟となった……という事になっているはずの領域だ。
「ラッキー!袋小路だ」
軍獣はジンの言葉が示す通り、軍獣の進む先には2Mを越える壁が立ちふさがっている。
「なっ!!!」
次の瞬間軍獣の行動にジンが思わず声を上げた。軍獣は壁の手前無造作に積まれたコンテナの器用にも足場変わりにして壁を乗り越えたのだ。

それは獣だからこそなせる芸当で人間には到底真似できる事のない動きだった。2人は走る速度を緩める。がチスイは警戒を怠ってはいなかった。
「ジン君、コンテナの後ろに!」
言葉が早いか行動が早いかチスイはジンの身体を引っ張るようにして軍獣が足場変わりにしたコンテナに背中を預けた。咄嗟に引っ張られた事でジンは態勢を崩したが、辛うじて転ばずに踏ん張る事には成功する。
「なんだよ、急に引っ張ったら」
「シッ」
ジンの言葉を口を手で塞いで強制的に遮ると同時にチスイは警戒心を最大限にまで強める。ここまで相当警戒していたはずなのに、移動しながらだったせいか相手がそれほどの者達なのか、2人は完全に囲まれてしまっていた。ここにきてやっとジンもその事に気付く。

「んだこれ」
「帝国軍の残党だ。思ってたより数が多い」
チスイは足らないとは思いつつも最低限の説明しかしない。頭の中ではこの状況を切り抜ける方法を考えていた。
チスイはこうなる事を想定はしていた。その為に黒魔導師として依頼に同行もした。が周囲を囲む数はチスイが想定していたよりもずっと多かった。あわよくばここで倒してしまうつもりでいたが、この人数相手にそれをしようとすればジンもチスイもボロボロになるのは明白だった。最悪は……

そしてチスイの懸念はもう1つある。
「残党って……人かよ」
ジンだ。ジンは間違いなく槍捌きが加速度的に上手くなった。がその成長速度故に気持ちが追いついていない。例え敵対するにしても人に対して刃を向ける事に未だに抵抗を覚えているのである。だからジンは普段も今回のように魔物などの類を相手にする依頼しか受けないようにしている事もチスイは知っていた。
チスイが今回黒魔導師として同行した理由もそこにある。もし敵が少数であれば、チスイは自分だけで敵を倒すつもりでいた。が想定より相手が多く、しかも完全に囲い込みに来ているので技を向ける方向が絞れない。いやがおうにもジンにも槍を振るってもらうしかない状況である。
そうこうしている間にも帝国軍残党は2人が背中を預けるコンテナとの間合いを詰めていく。チスイはその間合いを詰める帝国軍残党の速度の何倍もの速さで思考を重ねていた。

「ちーちゃん!」
「ジン君!ジャンプでこの包囲越えられる?」
「そりゃ出来るけど、そんな事したらちーちゃんが」
「10秒後にこのコンテナの真っ正面に跳んで、着地したらそのまま2秒耐えてイルシーブルで離脱。耐えるだけで攻撃はしないでいい」
細かく説明している時間はない。とチスイはやることだけを説明する。
「や、まて」
「5……4……3……」
「ええい、後で説明しろよ」
こういう時のジンの行動も読んだ上でカウントダウンを開始した。
「1……GO」

ジンはチスイのカウントダウンの合図に合わせて竜騎士特有のジャンプ力でほぼ真上に跳び上がるそのまま帝国軍残党の包囲を抜ける。急に飛び出したジンに帝国軍残党の視線は必然的にジンに集まる事になる。
「逃がすな!!」
リーダーらしき男の声の後方でチスイはコンテナから身を晒して詠唱を開始していた。軍獣との戦闘中から既に力は溜めていた。とはいっても魔力を集中して放つ為にはこの詠唱は欠かせないのだ。
ジンに指示した「2秒耐えろ」というのはこの間を稼ぐ為でもある。
詠唱しながらもチスイの視界は克明に状況を捉えていた。帝国軍残党達の視線はジンに集まり、包囲を抜かれた事でジンに群がるように集まっている。ジンは着地地点の一番近くにいて真っ先にジンに斬りかかった帝国兵の剣をかわすようにしてさらに後方に大きくバックステップするイルーシブジャンプを使った。そのタイミングはまさに絶妙である。
「……ファウル!」
チスイの詠唱が完了し、チスイは瞬間的に出せる最大火力である黒魔法上位の「ファウル」を唱えた。ジンの元に集まろうとしていた帝国軍残党に向かって。帝国軍残党の頭上でまるで花火のように魔法が広がる。魔法の近くにいた帝国軍残党はその勢いで身体が吹き飛んだ。
「く、女の方だ!」
振り返ったリーダー格の指示で残った者達がチスイの方に向かう。当然といえば当然だ。ジンは包囲から完全に抜けているとはいえ、チスイはまだ背中を壁に阻まれている状態である。

「ちーちゃん!!!!」

イルシーブジャンプをしたジンは着地するとチスイの名を呼んだ。突発的にやれと言われた事をやれた安堵よりもチスイがどうなったのかを気にしたのである。
「声が大きいよ」
しかしチスイの姿はジンがイルーシブジャンプする前まであったコンテナ横にはない。変わりにチスイは既にジンが着地した地点のすぐ横に立っていた。
エーテリアルステップ。味方のエーテルを頼りに移動する黒魔法の移動術の1つをチスイは使ったのである。

「え……なんで」
訳が分からないジンの言葉を遮るように、チスイは再び詠唱を開始する。目標は自身を見失った帝国軍残党。残党の陣形は完全に崩れ、ジンにチスイにと迫ったせいで今では完全にチスイの魔法の範囲内に集まってしまっていた。

「……ファウル!」
チスイは再びファウルを彼らに向かって唱えた。チスイの唱えたファウルは集まった帝国軍残党達の頭上で炸裂する。身体を吹き飛ばす程の威力こそあれ、完全に動けなくなったとは言えない状態である事はチスイ自身も理解していた。
「ジン君、逃げるよ!」
「わ、分かった」
チスイとジンは駆けだし、帝国軍勢力圏内から離脱する事に辛くも成功するのであった。

「これでよしっと」
チスイは会社に戻ると冒険者ギルド宛て、そして黒渦団宛てに事の仔細を記した封書を作成した。冒険者ギルドには偽依頼への警告、そして黒渦団は領域内の創作などより大規模な作戦を行ってもらう為だ。

こういう時、自身の持つ英雄という肩書には感謝せざるを得ないとチスイは思う。一介の冒険者の意見なら通りにくい意見だろうが、自身の名前があれば少なくとも上層部までは目を通してくれるだろう。その後の判断についてはチスイが知るべき所ではない。
ジンが偶然にもチスイを頼った事も不幸中の幸いだったと言える。
チスイは封書にしっかり印をすると机の上に置いたまま顔を上げた。一緒に返ったジンは今も来客用のソファーで頭をがっくしと下げている。

「ジン君、出来たよ。ジン君の名前も連名で入れといたから」
「お、おう」
気のない返事を返すジン。チスイは立ち上がるとジンの向かいに移動してソファーに腰を下ろした。
「ジン君、大丈夫だよ。今回みたいな特殊な例なら冒険者ギルドがしっかりと報酬をくれるはずだ」
偽の依頼とはいえ、形式上は今回の依頼は未達成である。普通なら未達成の依頼で報酬がもらえる事はない。が、今回はケースがケースなので冒険者ギルドも配慮するだろうというのがチスイの読みだった。
「あー、違うんだよ。ちーちゃん」
ここにきてようやく顔を上げたジン、その表情はいつも明るいジンの表情とはかけ離れている。

チスイはジンに会社までの帰り道で今回の裏を全て伝えた。
チスイの元に届いていた帝国軍残党の活発化、チスイがジンの持ってきた依頼を疑った事、チスイが黒魔導師として同行した理由。そしてチスイはジンに帝国軍残党の事を黙っていた事も謝罪した。もちろん確証があったわけではないのが理由ではあるのだが、それでも通すべき筋は通さなければいけないと思ったからだ。
その話を聞いた後からジンはずっとこんな感じで、チスイが封書を書いている間もずっとここに座っていたのである。

「じゃあどうしたの?」
「まーたちーちゃんに迷惑かけちまったと思ってよ。ちーちゃんが咄嗟に判断してくれなかったら俺……」
「なんだ、そんな事」
チスイとしてはむしろ迷惑をかけたのはこちら側だと考えている。言ってしまえば今回の同行はジンを囮にしたと言っても過言ではないのだから。
「俺どーしてもダメなんだよな。人に向けて槍を構えると手が震えるんだよ。冒険者としてこんなんじゃダメだとは思ってるんだ。それでもあんな状況になっても、俺の手は震えてた」

ジンは自身の手を見つめていたかと思うと顔を覆うようにして再び顔を下げる。
「こんなんじゃダメなんだよ。そんなつもりで今回ちーちゃんに声をかけたんじゃねぇんだ。ちーちゃんを護りたいなんて厚かましい事は言わねえけどよ、せめて護られてるだけじゃダメだと思うんだよ。それでもどーしてもダメで……」
ジンはチスイに言っているというより自身に言い聞かせるように言葉を続ける。しかしジンは帝国軍残党に囲まれたというインパクトで肝心な事が抜け落ちていた。
「でもその前の軍獣はほぼ1人で戦えてたでしょう?」
そう、軍獣との戦いではチスイはほぼ何もしていないに等しいのだ。帝国軍残党に遭遇した際の為に魔力を溜める事、そして周囲の警戒に力を注いでいたチスイはまともに攻撃した事の方が少ないのである。
「いやいや、あんなのは大したことないって」
チスイの言葉にジンは勢いよく顔を上げたかと思うと首を横に振るいながら大袈裟な身ぶりで否定するがチスイはそうは思わなかった。

相手は仮にも帝国軍が訓練した軍獣。そこらにいる魔物なんかよりも間違いなく強いと言える。その軍獣をほぼ1人で、しかも無傷で相手しているのだからジンの実力も間違いなく高いのだ。
「俺さ、冒険者になって色々な人に助けられてんだよ。ちーちゃんもそうだしみんな俺より出来る人ばっかりなんだ。いつまでもこのままじゃいらんねーんだよ。みんなの横に並び立ちたいんだ」
ジンは力強く決意めいた言葉をチスイに向ける。チスイはそんなジンの言葉に思わず微笑んだ。
ジンは自身の実力を過小評価するきらいがある。今回、軍獣戦での無傷ももちろんだが、チスイが瞬間的に立てて突発に実行した作戦も事前の打ち合わせもなく完璧にこなしたにも関わらずだ。並みの冒険者ならあんな咄嗟に対応は出来ない。少なくともチスイが知る範囲で数えられる程しかいないだろう。
「んだよ。なんで笑うんだよ」
「ううん、何でもないよ」
とはいえ、これを言葉にした所でジンがそれを認めないのもチスイはこれまでの付き合いで把握していた。ソファーから立ち上がるとジンを見下ろしながら続ける。

「さ、ボクもまだ仕事があるしジン君もそろそろ帰りなよ。マックさんももう帰ってくるんでしょう?マックさんに慰めてもらいなよ」
「お、おう?んじゃまぁそうするかなぁ」
ジンは頭を掻きながら立ち上がるとそのまま部屋から出ていった。
チスイはそんなジンの背中を見て思う。

並びたい、そんな風に言われたのはジンが初めての事である。
「憧れてます」という言葉をチスイはこれまで何度も聞いてきた。英雄なんて言われるようになってからは特に。
そして続けるように皆が、自分がチスイより下であるかのような言葉を口にして去っていく。チスイだから出来た事で自分に出来るとはとても思えないと。
だがジンは違った。さっきの言葉もそうであるようにジンは背中をがむしゃらに追いかけてくる。そしてその志は今も変わっていない。

自分を英雄視せず同じ1人の冒険者として見るジン。そんなジンだからこそ今でも交流を続けているのである。
「今度、難しい依頼がきたら協力を頼もうかな」
チスイは1人そんな事を呟きながら仕事に戻るのであった。

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