「これで今日の報告は終了です。次ですが、、、」
カルルさんが進行を務める会議が順調に進む。会議自体は不在が多いボクがいなくても回るようにしてくれているので基本的にボクは聞いているだけだ。
「ココンさん、ゴブレットビュートの方の拡張具合はいかがですか?」
「はい、ゴブレットビュートの社員の方で進め、、、」
会社としてすこぶる順調に進んでいる。業務拡大に向けて社屋の拡張工事も進めている状態で多くの業務はボクがいなくても回るようになった。嬉しい反面どこか寂しい部分も感じないでもないけど今後の事を考えたらこれが正しい形である事は理解している。
ボクはもうすぐ第一世界に行く事になる。それがいつになるのか、ボクにも分からない。今も暁のメンバーが必死になってクリスタルタワー周囲にあるという「なにか」を探しているはずだ。そしてそれが見つかったらボクは第一世界に渡る。既に覚悟はできている。
ただいつ戻れるのかは分からない。ボク1人ならそれでもいいのかもしれないけど今やボクは1人ではない。会社のみんながいる。ボクが長期間不在でも回るようにこれまでだってやってきてくれたけど今回ばかりはどうなるのか、分からないままだ。
未だ昏睡状態にある暁の賢人のみんな。或いは彼らのようにボクも長い期間戻れないなんて事も決してない。
「社長!社長!」
カルルさんからの呼びかけでボクはハッと我に帰った。気が付いたら会議は既に終わっていて会議室に残ったのはボクとカルルさん、そしてココンちゃんだけだ。
「社長、いくら聞いているだけで良いと言っても聞いていてもらわないと困ります」
カルルさんが呆れた様子で肩を落とす。全然頭に入っていない事をすっかり見透かされてしまっているらしい。
「ごめん、ごめん」
「社長だから仕方ないね」
「ココンさんも社長に甘すぎですよ!」
「だって、社長だし……」
すっかり慣れて諦めているココンちゃんと、慣れていても許してはくれないカルルさん。2人の性格が良く出た反応だ。味方のいないカルルさんは大きく大きく息を吐いた。
「もう、いいです。社長に関係する事だけ要点を絞ってお伝えします」
「ごめんね。お願いします」
カルルさんはメモを確認して伝えるべき内容を絞っていく。ボクは申し訳なく目を伏せているとココンちゃんと目が合う。ココンちゃんは目を細めてニコっとした。
カルルさんの咳払いにボクはカルルさんの方を向いてしっかりと話を聞く体制を整えた。
「社長にお伝えする案件は2つです。1つはゴブレットビュートの方で進めていた改装が終わったのでそちらの視察に行ってほしい事。もう1つは近々、探していたモデルの件で社長と面談してほしい方がいる事です。ここまでは大丈夫ですか?」
「視察と面談ね。大丈夫!」
どちらも以前から合った話だけに頭の片隅には入れていた話だった。
「視察の方は私もこの後ゴブレットビュートに向かいますので社長は後からテレポでいらしてください。案内はココンさんにお願いしています」
ミードもずいぶんと大きくなってミストに一番最初に構えた本社以外にウルダハとグリダニアにもそれぞれに事務所を構えている。今回はその中でもウルダハの支社をより効率的に使えるように改装するという話だったはずだ。ウルダハの支社はココンちゃんを筆頭に任せているので改装の過程はボクも確認していない。
「モデルの面談の方ですがこちらは向こうの都合もあり日程については近日中としかお伝え出来ません。もしかしたら私がウルダハの方に行っている間に来られるかも知れないです。お名前と特徴に関しては先程受付にも共有しておきましたのでもし私が戻る前に来られた場合には直接社長が対応をお願いします」
「分かったよ。ちなみにどんな子なの?」
「少なくともこちらの条件に関しては満たしている方です。ただ向こうからもお願いがあると聞いております」
「なるほどね」
人物像については見えないからこれは会ってみない事には分からないかな。
「それにしてもなんか納得いかなーい」
それを言う為に残っていたのかココンちゃんが拗ねて見せる。
「モデルの件ですか?」
「そうそう!私も頑張ってたのになって」
「以前にもお話したと思いますが、これはお客様からの要望です。ララフェルのモデルでは他の種族の方が着た時のイメージが付きにくいと。ルガディンのトシントルーグさんでも同じ事が起きるので間を取った方が良いという話です」
当然の話だけどエオルゼアには数多くの種族がいる。身長も体重も体型もバラバラなので装備もそれぞれに合わせる必要がある。当然同じ種族でもそれぞれ個人に体型は異なるわけで微調整は必要になるのだけど、装備を選ぶ段階ではデザインや動きやすさなど実際に着ているのを見てもらった方がわかりやすいという声も多くこれまではそのモデル役をココンちゃんが務めていた。そこで件の要望が発生する事になったわけだ。
「これも以前にお伝えしていますがココンさんにもこれまで通りララフェル族の方向けに続けてもらいますよ。ただモデルを増やすというお話でココンさんのこれまでの業務に問題があったわけではありません」
「うーっ。それはそうなんだけどね」
カルルさんの隙のない説明にココンちゃんは言い返せない。2人のやり取りはどうもカルルさんが主導権を握る事が多いように思う。カルルさんの説明に少しでも私情があるなら仲裁もするのだけれど今回のモデルのに関していえばそれも一切ないのだから庇いようがない。
「経費だけを考えるなら社長にやってもらうのが一番なんですけどね。これ以上社長の業務を増やすわけにはいきませんし、社内には冒険者らしい体型を持った方も多くはありません。だから社外からというお話になったのです」
「分かった、分かったよぉ」
カルルさんが経緯までしっかり説明するのでボクの出る幕は一切ないままココンちゃんは言いくるめられてしまった。ココンちゃんもかなり口は達者な方だけどカルルさんには敵わないらしい。
「社長から他になければ私はすぐにウルダハの方に行く準備をして発ちます」
ココンちゃんが一応納得したのを見てカルルさんはボクに向き直る。
「うん、大丈夫。後から行くよ」
「それでは」
ボクが何もない事を伝えるとカルルさんは律儀にお辞儀をして会議室から出ていった。
「カルルさん、強すぎる……」
会議室にはまだ聞こえるかもしれないと配慮したのか本当に小さな声でぼやくココンちゃんとそんなココンちゃんに思わず笑ってしまうボクだけが残された。
カルルさんからゴブレットビュートに到着したという知らせを受けてボクはテレポートでゴブレットビュートにある支社に来た。ココンちゃんはカルルさんの護衛で一緒に発っているのでボク1人だ。
ゴブレットビュートの支社は元々はザナラーン地方での商売を円滑に進める為の流通の拠点という側面が強かったのだけれど同時に細々とだけどザナラーン地方を活動の拠点とする冒険者達から注文を受ける窓口としての役割も持つようになっていた。最近ではその窓口業務も多くなってきたのでそれに合わせて改装した形だ。
中に入るとすっかり様変わりした内装が目に入る。入り口の右側には受付、左には待合室。ゴブレットビュートで作業はしないので普通のお客さんが入ってくるのはここまでだ。今回大きく広げた待合室の奥には軽い商談が出来るスペースも用意してもらっている。その待合室の椅子に座ったカルルさんがボクに気づくと立ち上がって駆け寄ってきた。
「社長、お疲れ様です」
「カルルさんこそお疲れ様。船での移動は大変でしょう?」
「いえいえ、道中何事もありませんでしたので。それより1つお伝えしないといけない事がありまして。社長に連絡した後、ココンさんがお客様に呼ばれて出ていってしまいました」
案内はココンちゃんから受けるって話だっただけにそれは問題だ。とは言ってもお客様が相手なら仕方ない。ココンちゃんは店頭には立たないが卸しの仕事や個別の対応などをやっているので呼び出される事も多いのだ。
「まぁ改装案は大体把握してるし細かい所はまた後で聞く感じにして、見て回るだけ回ろうか」
「分かりました」
ボクは仕切りを越えて事務所の扉を開ける。この事務所は元々あった部屋なのでさしたる変化はない。いつもはがやがやしている事務所が改装で人がいない分静かに感じられた。
「あ、またぬいぐるみ増えてる」
目についたのはココンちゃんのデスクだ。他のデスクが書類やら本やらが多いのに対しココンちゃんのデスクだけはぬいぐるみで溢れていた。
「またですか?まったくもう」
カルルさんがやや呆れるがこればっかりは仕方ない。ココンちゃんの可愛いもの好きは今に始まった事ではないし業務成績が悪いわけでもないのだから文句は言わない、と言った感じだ。これで成績が下がるような事があったらカルルさんが速攻で片付けさせるんだろうな。
他に特に目ぼしい変化はない事務所を後にする。今回の改装のメインは2階と地下なのでまずは2階に上がった。2階は元々は全て倉庫にしていた。これまでに契約した書類やら預かり状態になっているものの保管なんかに使っていたのだがスペースを圧縮して住み込み社員向けの居住スペースを拡張するのが今回の改装目的の1つになっていた。
居住スペースは今も誰かがいる可能性があるので軽く覗いてみるだけにして倉庫の方を見てみる。スペースを圧縮した事で業務に問題があっては本末転倒だ。
既に物が詰め込まれた倉庫には新設したロフトがしっかり備え付けられていた。
「これはスペースの有効活用が出来そうですね」
「そうだね。いい感じだ」
備え付けなどの基本的な部分には問題が無さそうなので後は実際に社員が使ってみた上で問題があれば報告してくれるはずだ。
そして今回の改装のメインである地下に向かう。地下はこれまで有効的に活用出来ておらず、たまに倉庫から溢れた荷物を置いていた程度だった。これでは勿体無いという提案が今回の改装のきっかけだった。
「こうしてみると大きいなぁ」
地下は全体を見回せる程に広い。その広さを活かして貸出もするイベントスペースとなった。地下全体の広さは本社と変わらないと聞いているけど、本社の方は壁で仕切っているからかそこまで大きく感じないのに対して仕切りをほぼ置いていない分広く感じる。
「置いている家具の多くは数人で協力すれば動かせるそうなので臨機応変に対応出来そうですね」
「慣れるまではここの社員総出になりそうだけど、上手くいくかな」
「私も未知数の事なので正直分かりません。全く需要がないとも思いませんが後はどれだけ上手く運用するか、ですかね。必要であれば私も出向こうと思いますが」
「移動時間を考えるとできれば避けたいね」
地下のイベントスペースを見ながら今後の構想を話す。未知数というカルルさんの表現は正しい。貸出を想定しているわけだけど借りたい人というのがいるのかは分からないし、その準備にどれだけの期間や費用が必要かどうかも分からない。やってみなければという典型例と言える。
「そういえば先程出ていく前のココンさんからこれを渡されていました。まだ正式告知はしていませんが早くも1件利用の打診が合ったようです」
カルルさんから渡された紙に目を通す。ココンちゃんの事だからどこかで話してその流れでって事なんだろうな。その辺りはさすがと言える。イベントスペースに関しては別に隠しておく必要もない事だし興味を持ってもらえるだけでもありがたいのにこうして打診してくる相手を見つけてくるあたりはココンちゃんらしい。
紙に書かれた打診の内容はまだ本格的ではないにしても思いは伝わってくる内容と言える。
「幸先は良い、のかな」
「試金石になりますね」
「上手くいくといいね」
ボクは目を通した紙をカルルさんに返す。イベント自体が上手くいけばそれはそのままこのイベントスペースの有用性を示す事にも繋がるし上手くやってほしいと思う。
「しゃちょー、お待たせしました!」
上からドタドタとした足音が聞こえると思ったらそのまま地下に降りてくる。もちろんその音の正体はココンちゃんだ。一旦音が遠くなったかと思うと再び音が近づいてきてそのまま地下に降りてきた。
「お疲れ様。大丈夫だった?」
「はい、問題ないです!」
「一通り見ては回りましたので仔細の説明をお願いします」
「はーい」
ココンちゃんの案内を受けて細かい所を確認している間もどうしてもボクの頭は第三者目線になっていた。案内をしっかり聞いてくれるカルルさん、細かい所までメモなどを見なくてもしっかり案内してくれているココンちゃん。他の社員もそれぞれに与えられた役割をこなしてくれている。
みんながここまでしっかりしてくれるのなら、例え万が一ボクが第一世界から戻ってこれないという事態になったとしても上手く会社を存続してくれるだろう。嬉しい気持ちとどこか寂しさも感じながらもボクはココンちゃんの説明に耳を傾けていた。
「ここかな」
事前に渡されていた紙を再度確認する。浜風に煽られながらも確認した場所は間違いなくこの場所を示していた。庭には中で作っているんだろう料理を楽しめるレストランが広がっている。浜風に乗って流れてくるその料理の匂いに後ろ髪を引かれながらも建物の中に入った。
「いらっしゃいませ」
あたしが入ってきたのに合わせて聞こえた声に導かれるように足を進める。どうやらここが受付らしい。アウラ族の女性が応対してくれた。
「モデルの件で伺ったんですけど」
モデルというワードでハッとした表情を見せる。視線の隅でもう1人の女性がスッと奥に下がっていくのが見えた。
「お待ちしておりました。あいにく社長は外出中ですがすぐに戻られますので社長室でお待ちいただくようにと仰せつかっております。こちらにどうぞ」
ずいぶん丁寧な受付さんだなと思いながら彼女の後ろに続く。少し前にエオルゼアでも話題になった東方由来の「着物」を着た彼女は歩きにくそうな服装ながらもスムーズに階段を登っていく。アウラ族も元々は東方の種族だと聞くし彼女も東方から来たのかもしれない。
「こちらにどうぞ」
「どーも」
服装を観察しながら歩いている間に社長室に入り、ソファーに通された。
「それでは少々お待ち下さい」
受付の女性は最後まで至極丁寧に応対してやはり東方風のお辞儀をして部屋から出ていった。
社長室というだけあってフカフカなソファーは程良く眠気を誘う。
「お待たせしたね」
不用意に聞こえた落ち着いた声にあたしの眠気は一気に飛んだ。見上げるとそこに居たのは赤髪が特徴的なヒューランの女性、チスイだ。冒険者としても有名であたしでさえその名前は知っている。そんな人が会社を開いて社長もやっているというのだから驚きだ。
「はじめまして。マーチャントアドベンチャラーズ社長のチスイです」
「クイです」
受付もそうだったように丁寧な挨拶をしてくれるチスイ社長。おそらくこの社長がこうだから社員達も丁寧なのかもしれない。
「今回はモデルの応募に声を上げてくれてありがとう。基本的な条件は募集で出した通りだけど」
「はい。必要に応じてモデルをする事、普段から出来る限りこの会社で作った装備を使ってほしいという物ですよね」
「そのとおりだよ。それじゃ少し立ってもらえるかな?」
チスイ社長に促されてあたしは立ち上がる。チスイ社長は座ったまま上から下までボクの身体を見回す。
「体つきも問題なさそうだね。普段は冒険者をしているの?」
「えっと、一応冒険者として登録はしてるんですけど、あたし自身はアーマーハンターと名乗ってます」
この辺りの説明は毎度の事とはいえポカンとされてしまう。チスイ社長も例に漏れずその反応はあたしとしてはお馴染みの光景である。いっそ冒険者とだけ名乗ればいいのかも知れないし必要がなければそうするようにもしているがこの後の話を考えるとチスイ社長には説明した方が良いと判断した。
「見識不足で申し訳ないのだけどアーマーハンターというとどういう事をするのかな?」
「近いのでいえばトレジャーハンターでしょうか」
申し訳なさそうに問うチスイ社長にあたしは何の偏見もなく答える。
「トレジャーハンターは主にお宝を狙ってアラグ時代の遺構だったりシャーレアンの学術研究所なんかを探索しますが、あたしの狙いはアーマー、つまり防具です。チスイ社長も冒険者だそうなので分かるかと思いますが冒険者はどうしてもアラガントームストーンの蒐集に夢中で防具は最低限しか取っていかないので既に冒険者の方々が回った場所も回ったりしますね」
チスイ社長はあたしの話を興味津々で聞いてくれるのであたしもしっかりと説明した。
「なるほどね。身体が資本なのは冒険者と共通しているね。あ、ごめんね、座っていいよ」
チスイ社長の言葉にあたしはソファーに座り直す。あたしの姿勢が整うのを待つようにしてから再び声を上げた。
「それでクイさんからもお願いがあると聞いているんだけど?」
「1つはモデルとして試しに着た衣装をそのまま頂きたい事です」
「なるほど、アーマーハンターとしてはここでも服がほしいと」
「せっかくの機会なので!それともう1つ、着た服に関して意見を言う事を許していただきたいです。これでも一応服の知識は豊富なつもりなので。こちらからはそれだけです」
「なるほど」
チスイ社長は考え込むように俯く。
これはあたしにとって少し賭けのようなものだ。色々条件をつける事はそれだけ契約できる可能性を下げてしまうがあたしとしても時間を取る以上、単純な報酬以上の何かが欲しいという我儘。我儘だと理解した上でどう判断するかでチスイ社長の事を推し量るつもりでもあった。
少しの間場を静寂が包んだ後、チスイ社長が顔を上げる。さてどういう判断をするのだろうか。
「1つ聞いてもいいかな?」
「なんでしょうか?」
「クイさんがそこまで防具に、服にこだわる理由を聞いてもいいかな?」
「理由、ですか」
チスイ社長の質問にあたしは少し間を開ける。この段階でどこまで話して良いものか。ただここで隠し事をしてもこちらにメリットはないのも事実だ。
「あたし、元々は黒衣森で生まれたんです。でもそこでの生活は決して穏やかな物ではありませんでした。あたしは群れを抜けて都市部に出て冒険者になりました。冒険をするうちに探索任務なので打ち捨てられた防具達を見つけたんです。他の冒険者は目にもくれないそれらが不憫で収集を始めたのがきっかけです。防具それぞれに使い手がいて、作り手がいるのにいつまでも放置されて朽ちていくのは見ていられなくて防具を収集する事に特化して冒険をするようになりました」
全てを話したわけではないが嘘も言っていない。少なくともチスイ社長の求める理由としては十分なはずだ。
チスイ社長は黙ってあたしの話を聞いていたかと思うと口角を上げて笑みを浮かべた。
「変ですか?」
「いやいや、そうじゃないよ。さすがアーマーハンターと自称するだけあるね。イイ瞳をしてる」
こだわりを笑われたかと思ったが決してそうじゃない。これを言われたのは人生で2度目だ。
「いいね。お願いがその2つならこちらとしては問題ない。なんならアドバイザーとしての分も報酬に追加させてもらうよ」
「良いんですか?」
「もちろん、それ相応の仕事はしてもらうけどね。これからお願いできるかな?」
差し出されたチスイ社長の右手、これがチスイ社長の答えか。こちらの条件を飲むだけじゃなく追加報酬まで。ここまでされて断る理由はない。
「こちらこそよろしくお願いします」
あたしはチスイ社長の右手を握り返して頭を下げた。